聴覚の末梢器官である内耳蝸牛は、音という物理刺激を蝸牛内の上皮膜(Sensory epithelium)の小さな揺れに置き換え、さらにこれを電気に変換して脳へその情報を届けています。この小さな揺れは、1ミリの100万分の1(1ナノメートル)、水分子一個分の大きさです。また、上皮膜には、揺れに合わせて自らナノメートル単位で伸び縮みできる「外有毛細胞」が含まれています。この細胞の働きにより、音の大きさ(音圧)と小さな揺れの関係には「非線型」の増幅機構が備わっています。言い換えれば、小さな音圧の音ほど大きく揺れを増幅し、大きな音圧の音ほど増幅しない、ということです。このように、音という物理現象と、細胞という生物の機能が織りなす複雑・精緻な聴覚の音受容機構の謎に迫り、機構の破綻に起因すると考えられる原因不明の難聴の病態に、生物・物理学的視点からアプローチすることが目標です。
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自作のLabVIEW, Matlabプログラムを用いた
計測機器制御 |
工学技術者との共同研究による
世界最高性能の光干渉断層撮影装置の開発 |
オンリーワンの計測機器を用いた
蝸牛生理学分野の新発見 |
<共同研究者:岐阜大学応用生物学部 土田 浩治、岡本 朋子>
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音受容の仕組み解明に応用される工学計測技術は、音を中心とした生体の解析にも応用が可能です。当研究室では、昆虫の聞いている音や、発する「音」に着目し、超音波マイクやレーザー干渉計を用いた生物の計測、行動解析も行なっています。
時にその攻撃によりヒトを死に至らせるスズメバチは、敵が巣に接近した際に大顎をカチカチとならす警告音を発し敵に撤退を求めます。しかし、多くの場合警告音を発する時点で集合フェロモンを放出し、巣全体が攻撃体制にはいるため、その前に巣の存在を検出するシステムの構築は喫緊の課題とされています。本プロジェクトでは、ハチが巣の周辺で活動する際の羽音に注目し、これを検出するシステムの構築を目指します。特に被害の大きいスズメバチ種3種をターゲットに種特異的な羽音の特徴を明らかにすると共に、行動を改変できる音を探索し、スズメバチの早期発見と刺噛被害のの回避を目指します |